【完】☆真実の“愛”―見つけた、愛―1


「……と、あんたは女嫌いなんだっけ?欲求を満たすのにだけなら近づけるって、夏翠が言って……」


そんなときにふと、夏翠の言葉を思い出したらしい沙耶は、俺から離れようとする。


確かに、女は嫌いだ。


強い香水も、化粧の濃さも、何もかも。


俺の嫌いなものばかり。


でも、この女は。


……沙耶だけは。


「……わぁ!?」


引き下がろうとした、沙耶の腕を掴んで。


自分の胸に引き寄せた。


「ちょっ……な、なに!?吃驚するって!っっ……」


迷わず、彼女を抱きすくめる。


「……そ、相馬?どした?」


苦しそうな彼女の声が聞こえても、俺の腕には力が入ってしまう。


「きつい?」


男に抱き締められてもなお、平然とするこの女は、やっぱり、夕蘭の生まれ変わりなのだと実感する。


大きく息を吸うと、彼女の優しいにおいがした。


香水でも、なんでもない、優しい香りが。


「……すまん」


――5月8日。


それは、一年で1番、嫌いな日。


母さんの命日。


そして、俺の懺悔の日。


彼女はなにも言わず、抱き締めさせてくれていた。


彼女の言う通り、泣きそうになっていたのかもしれない。


過去の夢を見たせいで、


母さんを思い出したせいで、


祝われない、誕生日がきたせいで。


「……誕生日、おめでと」


彼女の息づかいが聞こえる、距離。


小さな声でそう言って、沙耶は抱き締め返してくれた。


生まれて初めての経験に、嬉しくて……触れる手が懐かしくて、本気で泣きそうになった。


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