華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
「し、死んじゃったの?」

「気絶してるだけだ。今のうちに行こう」


きびきびと答えるセイディーレは、待っていた相棒の黒い馬に颯爽と乗り、再び私に手を伸ばす。その手を取るとぐいっと引き上げられ、彼の後ろに跨がった。


「ティルクは二人乗りでもそれなりにスピードが出せる馬だ。しっかり掴まってろ」


ティルクっていう名前なのね、この子。これからよろしくね。

心の中で呟き、「わかったわ」と了承した私は、セイディーレの身体に遠慮がちに腕を回す。

見た目は細身だけれど、しっかり筋肉がついていて逞しいことがわかる。

なんかドキドキしてしまう……と余念を抱いていたのもつかの間、すぐに足を蹴り始めたティルクの振動が大きくて、遠慮なんてしている場合ではなくなった。


ぎゅっとセイディーレにしがみつきながら、徐々に離れていくクラマインの城を振り返る。

あそこに残してきた皆のことを思うと、いつまでも胸が苦しい。


「お父様たち、大丈夫かしら」

「やつらの狙いは、あくまでお前を拉致することだからな。お前がいないとわかれば、陛下たちには手を出さないはずだ」

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