華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
人差し指で示されたのは、廊下を挟んで向かい側にあるひとつのドア。ここが彼の部屋なんだ。

そっか、ここで一緒に寝ても…………って!


「なに言ってるの!?」


ギョッとしてがしっと腕を掴むも、彼女の意識はどこか遠くに飛んでいってしまったかのように、目線をうっとりと宙にさ迷わせている。


「かけおちの夜だもん、熱く燃え上がらないほうがおかしいよね。大丈夫だよ、声も聞こえないから♪ んっふふふ」

「ちょ、アンジェ!!」


頬をピンク色に染めて変な笑いを漏らした彼女は、私の肩をポンポンと叩いて歩きだす。私の声は全然耳に入っていないらしい。

アンジェはもう私たちがかけおち中だって信じているのね。『声も聞こえないから』って、なんの心配をしてるのよ、まったく!

一応、私にもそれなりの知識はあるから、彼女の発言の意味もわかる。書庫にあった官能小説っぽい本も、こっそり読んだことがあるし。

でも、あんな行為を自分がするだなんて考えたくないし、ましてやセイディーレとだなんてありえない。

万が一、一緒に寝ることになったとしても、彼が私なんかに欲情するはずがないんだから。

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