華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
背後から抱きしめるだなんて、不意打ちもいいところ! 今は恋人のフリをする必要なんてないのに、どうして?


「セ、セイディーレ、なにして……!?」

「こういうとき、恋人はどうするのかって言っただろ」


動揺しまくりの私の耳元で、甘さを含んだ声が囁いた。「俺ならこうする」と。

セイディーレって、好きな人にはこんなふうに包み込んであげるんだ。……羨ましいかも。

背中にぴたりとくっついたセイディーレの身体は、逞しくて、熱い。シャツが薄いからそれがよく伝わってきて、心臓が破裂しそうなほどドキドキする。

この熱に惑わされて、錯覚しちゃいけない。これはただの慰め。私たちの間には、愛なんてないのだから。

でも、私を守ると誓ってくれてから、明らかに態度が変わってきている。初めて会ったあのときの冷たさが嘘のようだ。

彼の中で、なにかしらの変化があったように思えて仕方ない。


「……ねぇ、なんで急に優しくなったの?」


腕の中でじっとしたまま、ストレートに問いかけてみた。反応を窺っていると、彼は腕の力を緩めることなく、ボソッとひとこと返す。


「なってない」

「えぇ?」


あっさりと否定されて、思わず不満げな声を出してしまった。

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