華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
こんなに、宝物を扱うみたいに優しく抱きしめておいて、説得力ないんですが。やっぱり謎だ、この人の思考回路は。

なんだかおかしくなってきてクスクス笑うと、ようやく手が離された。少し照れつつ後ろを向くと、いつもの涼しげな表情の彼がいる。


「これで安心して寝れるか?」

「うん、ありがとう」


いつの間にか涙も止まっていて、だいぶ気持ちが軽くなったことを実感しながら、私は微笑んで頷いた。

そして確信する。きっとセイディーレは、私を安堵させるために、わざわざ皆の無事を確認してきてくれたのだろう、と。

あなたのそういう隠れた思いやりを、私はどうしようもなく愛しく思うよ。

…………ん? 愛しい?


「……どうかしたか」

「あ、ううん、なんでも! おやすみなさい」


一瞬考え込みそうになってしまった私は、彼の声ではっとして笑顔を向けた。自然と湧き上がってきた感情に戸惑いつつ、そそくさと部屋を出る。

パタン、と閉めたドアを背にして、深く息を吐き出した。

鼓動のスピードはまだ若干速くて、ざわめいたまま。抱きしめられていた感覚も、しっかり残っている。

今日はいろいろなことがあって、とても長くて色濃い一日だった。その終わりに、新たな問題が浮上してしまうとは。

家族に対するものとは違う、“愛しい”というこの感情の正体は、まさか──。




< 137 / 259 >

この作品をシェア

pagetop