華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
「……なんか、別人みたい。優しくて」


ぽつりと正直なひとことがこぼれると、セイディーレは鏡越しに私を一瞥し、ふっと笑みを浮かべる。


「お前の前でだけだ」


きゅうっ、と胸が締めつけられた。

私の前では素を見せてくれるのだと思うと、優越感のような嬉しさが湧いてくる。

口元を緩めていると、ファスナーを上げきる前に、髪を掻き分けた肩に柔らかいものが押し当てられる感覚がした。

それが彼の唇だとわかり、肩から首にかけてキスをされると、思わず甘い声を漏らしてしまった。

目の前の鏡には、快感を堪えて顔を紅潮させる私と、舌を這わせながらそれを見つめる官能的なセイディーレが映る。


「その顔、すごくそそられる。何度抱いても足りない」


彼は意地悪っぽく口角を上げ、そんなことを口にした。

かぁっと顔に熱が集まる。きっと私を困らせるためにわざと言っているに違いない。

赤くなりっぱなしの頬を膨らませて少し後ろを向くと、すぐに抱きしめられ、今度は唇にキスが降ってきた。

……どうしよう、好きすぎて苦しい。このまま時間が止まってしまえばいいのに。

甘い甘い口づけに酔いしれながら願っていたものの、唇が離れていくと、それは叶わない願いなのだと思い知る。

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