華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
懐かしさを感じたのは、十二年前にも聞いていたからだ。

まだ幼さが残る、セイディーレの声を──。


「う、そ……」


断片的にだけれど記憶を取り戻し、気がついたら涙がぼろぼろとこぼれていた。

あのとき、まさか本当にセイディーレがあの場所にいたなんて。

なぜ彼が私と一緒にいたのかはわからない。けれど、これだけは確かだ。


「悪魔なんかじゃ、なかった……。彼は、私を助けて……」

「姫様?」


涙声で独り言を呟く私を、セアリエは気にしながらも馬を走らせ続ける。

どんどん遠くなっていく彼と、離れたくない気持ちでいっぱいだった。


セイディーレはいつも、私を守ってくれていた。それなのにどうして、悪魔だなんて言われるの?

どうして私は、こんなに大事なことを忘れてしまっていたの──?

理不尽さを感じるとともに、自分が不甲斐なくて、涙で塩辛くなった唇を噛みしめた。

セイディーレがすべてを語ろうとしなかったということは、なにか話せない事情があるのかもしれない。

しかし、彼がくれた愛は儚い夢のようでありながら、実はもっと根深いものだったのではないか、と思えて。

私の恋情も、色濃くなるばかりだった。




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