アフタースクールラヴストーリー

「久田先生、少しいいですか?」

職員室に入ると、僕は教頭先生から話しかけられる。
全高は教頭先生の二人体制を導入していて、一人目が今話しかけてきた竹本俊(たけもとしゅん)先生。
常に落ち着いていて、他の先生も怒ったところを見たことが無いという。
ただし良い意味でも悪い意味でも自分のペースを保つ人なので、それに振り回される先生も少なくないそうだ。

もう一人の横谷浩(よこたにひろし)先生は、周りの先生から話を聞く限り兎に角頑固な人らしい。
悪い人ではないのだけれど、自分の意見を無理にでも通そうとしてくることがあるので、その時によって相手が受ける印象が極端に変わる。
筋の通った主張をする時は他人からも支持されるが、反対に的外れな主張になってしまった時は反感を買いやすい。
そんなような説明の仕方を誰かがしていた。

僕は自分の机に荷物を置いて、竹本先生の話を聞く。

「何でしょうか?」
「実は久田先生にお願いしたいことがありまして。林先生がもうすぐ産休に入られるのはご存知ですか?」
「ええ。そんな感じの話は聞いたことがあります。それが何か?」
「実は林先生がいなくなった後の生徒会の顧問を、久田先生にお願いしようと思っていましてですね」
「え? 僕ですが?」

あまりにも急な話に、僕は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
だがそんな僕の様子などお構いなしに、軽快な口調で竹本先生は話を進める。

「はい。生徒会については長い間林先生に任せていまして、後任を誰にしようか決め兼ねていたんです。そこで久田先生は生徒会長の副崎とも仲が良いみたいですし、他の部分も考慮して適任ではないかという話なりました」
「それはありがたいですけど、いきなり顧問というのは……」
「大丈夫ですよ。基本は生徒主体ですし、生徒会の子達はしっかりしていますから。それでは、お願いするということでよろしいですか?」
「え?」

まだ何も返事してないんだけど……。
しかしこの状況では、そんなことは言い出せそうにない。

「あ、産休入るまでは林先生が顧問として動いてもらいますので、その間に色々と聞いておいて下さい」
「は、はい……」

それだけ伝えると、竹本先生は自分の席に戻っていく。
なんかだ、半ば強引に押し付けられた気がする。
竹本先生のペースに振り回されるというのはこういうことか。
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