アフタースクールラヴストーリー

夕食を作り終え、私はリビングの机に座る。

「いただきます」

テレビから聞こえる出演者達の愉快な笑い声だけが、部屋全体に流れている。ここ数年はこんな感じに夕食を食べる日ばかりだ。


食べ終えた私は自分の部屋へと入り、学習机に座ってノートを広げる。
週明けに迫ったテストに備えて、勉強しなければならない。
だが集中しようとすればするほど、頭の中に帰りの光景が浮かび上がる。

「はあ……」

これまでついたことのないような深い溜息。
明日同じクラスで優君の顔を見るのかと思うと、ますます気が重い。

ふと、机に飾られた一枚の写真が目に入った。
そこには私と優君が二人で写っている。
これは中学一年生の時に優君の家族と私の家族で、どこかの渓流でバーベキューをした時に撮ったものだ。
私が楽しそうな笑顔でピースサインする一方で、優君はすました顔をしている。
この頃から優君は口数の少ない人だったが、毎日一緒にいてくれて、とても優しい人だった。
思えば優君と私は、今まで一度もケンカをしたことが無かった。
今日みたいな言い争いも無い。
だからこそ今日の出来事はショックだったし、明日どんなふうに顔を合わせればいいかが分からない。

「明日どうしよう……」

開いた教材は一ページも進むことなく、一時間近く時間が経っていた。

すると、玄関が開く音が聞こえる。
お父さんが帰ってきたようだ。
ちょうど良いので、私はお父さんの夕食の準備をしながら気を紛らわそうとする。

「おかえり」

私は部屋を出てお父さんを迎える。

「ただいま」

特に表情を変えることもせず、お父さんはそれだけ言って靴を脱ぎ玄関を上がる。

「今夕飯の準備をするから、待っててね」

二人の間に沈黙が流れないよう声をかける。
だがお父さんは、私との会話を拒むかのようにこう言った。

「ああ、いい。外で済ませてきた。テストも近いんだし、私のことを気にする時間があるのなら、お前は部屋で勉強していればいい」

冷たく、淡々とした口調だった。

「は、はい……」

私は何も言い返せず、ただただ返事をする。

忙しい仕事でお父さんは疲れている……。
テストの近い私が、勉強に集中できるように配慮してくれている……。
全部私のためにやってくれている……。

どれだけそう自分に言い聞かせても、どんなに取り繕っても、その淡々とした口調の中にはなんの温もりも感じられなかった。
お父さんの言葉は雹のように降りかかり、私の身体を貫く。
もう少しでいいから自分を見てほしいという願望は期待するだけ無駄なのだと、伝えられているようにしか聞こえなかった。
ひどい虚無感と失望感が、私を襲う。

私は再び学習机に座ることはせず、部屋のベッドの中に入って眠りについてしまった。

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