アフタースクールラヴストーリー
「お前さあ、美奈ちゃんに何かしたの?」
「はあ? なんだよいきなり」
昼休み、いつものように優はクラスメイトの修平と昼食をとっていた。
その最中、唐突に修平が優に質問する。
「だって今日の朝おかしかったじゃん、二人の様子。普段ならまず、美奈ちゃんが元気良く挨拶にして来るだろ」
「うるせえよ」
表情を変えずとも、優が機嫌を損ねたことに修平は勘付く。
自分が言った通り優と美奈の間に何かがあったということだ。
「やっぱ何かあったんだな」
「別に」
「何があったか、親友の俺に話してみな。お兄さんが何でも聞いてあげよう」
おどけた口調で言う修平。
「だから別に何も……わっ!」
優が言い返そうすると、修平が顔を近づけてくる。
驚いた優は思わず大きな声を上げてしまう。
「な、なんだよ」
「自分で解決できない問題抱えて、後で取り返しのつかないことになっても、誰も助けてやれないんだぞ」
おどけた顔つきから一転、修平は真剣な表情で優に忠告する。
「一人でなんでもやろうとするところ、野球の時と変わらねえな。野球の試合中はお前が何も言わなくても、こっちが気付いてカバーできるけど、こういうことはそっちから話してくれないと協力できないんだよ」
「協力してもらおうなんて思ってねえし……」
優は修平の顔を見ない。
それに対して修平は、宥めるような口調で声をかける。
「お前さあ、自分一人で問題抱え込んで辛くないの? そりゃあ一人で何でも解決できたら楽かもしれないけどよ、一人で出来ることなんて限られてるし、無理に一人でやって上手くいくことは少ないだろ。結局自分で自分の首を絞める。それって本末転倒じゃん。一人でやるってことはさ、すごいことでもかっこいいことでもないと俺は思うよ。助けて欲しい時に助けてって言えた方が絶対に良い。お前は口にしないだけで色々と考えられるんだから、自分が今どうした方がいいかも分かるだろ」
「くっ……」
優は一度口を噤んだが、その後暫くしてから小声で言う。
「美奈を怒らせた」
「怒らせた? なんで?」
「俺の一言で、あいつを傷つけた」
優の顔が、段々と憂いを帯びてくる。
「傷つけたって、何言ったんだよ?」
「それは……」
優の憂いが強くなる。
修平は何かを感じ取り、無理に聞くことはやめる。
「なるほどね。だから今日の朝あんな感じだったのか。で、どうすんの? このままってのはお前も困るだろ」
「出来るだけ早く仲直りしたい。けど、今まであいつとこんなふうになったことないから、どうすればいいか分からん……」
昼飯食べる手を止め、俯き気味に話す優。
ここまで落ち込んでいる優は初めて見たので、修平も驚きを隠せない。
「ふむ……、言われてみたら二人のケンカとか見たことないな」
修平も箸を置き、腕を組んで考える。
「そうだなあ……。こういう時はまず、美奈ちゃんに謝ることだな。お前も悪いことをしたと感じてるみたいだし、何がいけなかったのかも多分分かってるんだろ。だからなるべく早く、素直に頭を下げて謝ることが一番だよ」
「謝る……か」
「そうそう。お前も何か思うところがあってこうなったのかもしれないけど、傷つけた自覚があるなら先に謝罪して、後できちんと話し合えばいい」
「お、おう……、分かった」
優の顔が少しだけ明るくなるのが分かり、修平の表情も和らぐ。
「よし! この話終わりな。後はお前次第だ。悪いな、言いにくいこと言わせちゃって」
修平は手を叩き、再び箸をとる。
そうして、週末にある野球部の夏の大会の抽選会についての話を始めた。