副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「ふ、副社長……!」

 力が入らない手を震わせると、彼は再び口付けを落とした私の手を優しく握った。

「副社長じゃない。――千秋」

 そっと力が込められて、甘く囁かれると、もうなにも考えられない。

「ち、あき……さん?」

 胸が苦しくなるほどの羞恥心に、私は操られたように震える口を開いた。

 ……どうして彼に言われると、逃れられないのだろう。

「うん。行こうか、明日奈」

 満足そうに薄笑みを浮かべた彼は、私の手を引いて歩き出した。

 私にとって人生で初めてのデート。まだ始まっていないのに、私の心臓は、すでに限界を迎えようとしていた。
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