副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「もうすぐ着く。もう見えてきてるだろ?」

 一時間ほど走った頃、彼が口を開いた。

「えっ……!」

 シートから飛び上がるように窓の外を眺めると、車はすでに海沿いを走っていて、私は助手席側に徐々に大きくなっていく鮮やかな海に心を弾ませる。

 わぁ……! 本当に見えてきた。

「窓を開けたら、潮の香りがするんじゃないか?」

 彼は正面に見える海を見つめながら、ポツリと呟く。

「えっ! いいんですか!?」

「あぁ、好きなだけどうぞ」

 私が目を輝かせると、彼は口元に手を当てて笑いを堪えながら窓を開けてくれた。

 その姿を見て、ハッと我に返る。

 しまった。海を見て、ついはしゃいでしまった。おかげでまた副社長に笑われちゃったよ……。

 込み上がる羞恥心に顔を歪めながらも、車内に流れ込む潮風に頬の力はすぐに緩んでいく。

「いい香り……」

 頬を撫でる少し湿った風が心地良くて、思わず呟いた。

「今日は温かいから、足だけなら入れるかもしれないな」

 それを聞いて、途端に嬉しくて口角が上がってしまう。

 彼も心做しか言葉の端々を弾ませている気がして、私ももう目の前の海がさらに待ち遠しくなった。
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