副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
 恐る恐る彼の胸に頬を寄せると、彼は嬉しそうにクスリと声を漏らし、再び私をしっかりと抱き締めてくれる。

 激しく轟く鼓動が、こんなにも心地良いなんて。

 そして彼の優しい熱が徐々に私の心を溶かしていくようで、私がずっと守ってきたと思っていたものが、いかにこの温かさを求めていたのだと思い知らされた。

「……ち、千秋さん」

 名前を呼ぶと、彼はゆっくりと私を引き剥がし、こちらに視線を落とす。

 その思っていたよりもずっと柔らかな表情に、一際大きく胸が打ち始めた。

 私の言葉を待つ彼は、キュッと目を細める。

「そんなに困らせないでください。このままじゃ……どうにかなりそうです」

 いたたまれなくて滲む涙を堪えるように唇を結ぶと、彼は歯を見せてイタズラに笑った。

「安心してどうにかなればいい。責任は、全部俺が取ってやる」

 一瞬の迷いもない言葉に、私はなぜか身体中の力が抜ける。

 彼から離れるなんて、本当に出来ないのかもしれない。

 いつの間にか流れる波の音が聞こえてきて、私はそんなことを思った。
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