副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「……こ、婚約、者?」

 絞り出した言葉は、驚くほどに震えていた。心臓が暴れるように激しく動悸して、目の前の景色が歪んで見える。

「えぇ。私、千秋が帰ってきたら結婚するって言うから、彼が帰ってくるのをずっと待ってたんです。望月さんともきっと長いお付き合いになると思うので、よろしくお願いしますね」

 胸を踊らせたように笑みを零す彼女は、ちょうどやって来たエレベーターに乗り込んだ。

 あとを付いていく長い髪が、私を嘲笑うように揺れる。

「では、また」

 私はなにも言葉が出てこないまま、閉まりゆく扉の向こうへ消える彼女をただ呆然と見つめていた。

 エレベーターの扉が閉まる音が、まるで鋼鉄だったかのように響いて聞こえて、頭の中を何度も木霊する。

 その音が止むと、私は崩れるようにその場にしゃがみこんだ。

『千秋の婚約者の――』

 彼女の澄んだ声が頭にこびりついて、離れない。

 あんなに綺麗な人が、婚約者?

 笑顔が素敵で、愛想が良くて、美人で、スラリと背が高くて――。

 まるで、……私とは正反対の人だった。
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