副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
トイレにある手洗い場に両手を付きながら、落ち着かない鼓動から目を背けるようにそっと目を閉じる。
蛇口からほとばしる水が白い陶器に跳ね返り流れていく音だけに意識を傾けようとするけれど、すぐに先ほどの出来事に簡単に引き戻されてしまった。
……私今、どんな顔をしてるのかな?
ゆっくりと顔を上げて目の前にある鏡を見ると、青白く見える顔は、今にも泣き出しそうなほど悲痛に歪んでいた。
自分でも初めて見たその表情に、胸の奥が言いようもない喪失感にかき乱れる。
「私、こん……な、顔……」
――こんな顔じゃ、副社長に会えない。
思わず目元に触れると、固く結んだはずの唇は大きく震えた。
すると遠くからテンポの良い高い足音と話し声がして、私はその場で何事もなかったかのように姿勢を正す。
しかしその顔はどう見ても悲しみに乱れていて、とてもじゃないけれど、いつも彼の影となり冷静に感情をコントロールしなければならない秘書失格だった。
仕事に影響を出すなんて、私を選んでくれた副社長の顔にも泥を塗ることになるのに……。