副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
 そうか、私はなんて勘違いをしていたんだろう。

 副社長はこの大企業をいずれ背負って立つ人間で、私とは全く違う世界の人なのだ。

「突然部外者から大切な〝パートナー〟を選んだときはまさかと思ったけど、やっぱり彼の見る目は確かだわ。美穂子さんはホテル業界大手、『ホテル・ハナイ』の会長のお孫さんでしょ? この会社にとっても、これ以上ない相手よね」

 女性はそう言うと、私から視線を外し自身の唇に赤い口紅を滑らせる。

 私がその後ろを通り出口へと足を進めると、別の女性がため息混じりに口を開いた。

「副社長になら遊び相手にされてでもいいからお近づきになりたいと思ってたけど、あんな素敵な人に一度でも抱き締められたら……きっと本気にならないなんて無理よね」

 遊び相手、という言葉が、私の胸に鈍く刺さる。

 それは副社長室に続く廊下を歩いている間に化膿(かのう)したように痛みを増していき、思わず服の上から胸元を強く握った。
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