副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「失礼致します」

 副社長のドアを押し開けると、彼は机に肘をついて手のひらを顔の前で組んでいる。

 私に気付くと、彼は椅子を荒々しく鳴らして立ち上がった。

「遅くなってしまい、すみませんでした」

 手を揃えて深々と頭を下げるけれど、彼が今一体どんな表情で私を見つめているのか考えるとたまらなく怖くて、膝が震えそうになるのをぐっと堪える。

「……明日奈、話があるんだ。さっきの彼女のことだけど――」

「――い、今は! ……仕事中、ですから」

 焦りを抑えきれない初めて聞く彼の乱れた声に、私はいてもたってもいられず言葉を遮った。

 静かな部屋には興奮した私の声が響いて、驚いたように目を丸めた彼は、すぐに瞳に悲しい色を揺らす。

 それを見て、胸が引き裂かれたように痛んだ。

「今日帰ったら全てを君に話すから、聞いてくれるか?」

 彼は一歩ずつこちらに近付くと、私と少しの距離を開けて足を止める。

 触れ合えそうで触れ合えないその距離。心を見透かされたような気がして、私は彼の目を見ることが出来ずに俯いた。
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