副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「イタタタ……。あ、す、すみません!」

 じんわりと痛む鼻を擦るのも忘れて、私は慌てて顔を上げた。

 すると彼もようやく私の手を離し、徐に身体をこちらに向ける。

 しかしパーマがかった長めの前髪が目元を覆っていて、先ほどからその表情はまるで伺えない。私は思わず今にも触れ合いそうな距離から、大きく一歩後ろへと下がった。

「すみません! 実は私、お酒は掛かってないんです。心配してくださったのに、すぐに言えなくてすみませんでした」

 受け取ったハンカチを差し出しながら勢い良く頭を下げると、次の瞬間、頭にふわりと温かな感触が降りてくる。

 驚いて今度は跳ねるように頭を上げると、私の頭に吹っ飛ばされた手を見つめる彼は、クスッと小さく笑みを零した。

 い、今の一体なに!?

「大丈夫、知ってる」

 知ってる……? じゃあ、一体どうして……。

 事態が飲み込めなくて何度も目を瞬かせていると、彼は持っていたジャケットを羽織り、すらりとした大きな身体を私に合わせて屈めた。
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