副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
 突然目の前に現れた顔に驚いて身じろぐと、背後にあった壁に軽く頭をぶつける。

 彼は目を見開いた私を見てか、再び小さく笑みを零した。

「荷物取ってくるから、ちょっとここで待ってて」

 まるで子供を安心させるように、淡く、柔らかな声でそう囁いた彼は、私の返事を聞くことなく背中を向けて来た道を戻っていく。

 その背筋がピンと伸びた綺麗な後ろ姿をただ見つめて、見えなくなると、私はようやく大きく息をついた。
 
 空気が抜けた風船のように、強ばっていた身体中の力が一気に抜けて、思わずその場に座り込んでしまいそうになる。

 あの人もしかして、私のためにわざと? でも、どうしてそんな……。

 考えてみるけれど明快な答えなど出るはずもなく、私は早くなった鼓動を必死に落ち着かせながら、言われた通り彼が戻ってくるのを待った。
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