副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
 家に帰って、一番に机の上に置いた薄緑の封筒。

 晩御飯を食べて、お風呂に入って、今日進まなかった仕事をなんとか終わらせて、その間にも何度も視線を向けたけれど、開けるのが怖くて散々後回しにしてしまった。

 ようやく正座をして向かい合うと、深く深呼吸を繰り返す。

 出来れば開けたくないけれど、仕事のことだからそんなことも言ってられない。ただでさえ秘書技能検定の知識だって、もうとっくに錆び付いてしまっているかもしれないのだから。

 大きく息を飲み、意を決してペーパーナイフで封を切った。

 震える手で、クリアファイルに入れられた書類に目を通していく。

「えっ、引越しまでしなきゃいけないの?」

 秘書業務の内容などが記載された書類を捲っていき、何枚目かの書類に書かれていたのは、新しい社員寮の説明だった。

 どうしてわざわざ引越し? しかも、今より会社から遠くなる。副社長の家の近くに……ということなのだろうか?

「秘書って、ここまでしなきゃいけないの?」

 ポツリと呟いて、大変なことに気付いてしまった。

 ……ということは、一週間以内に引越しまでしなければいけないということだ。

 思わず全身の力が抜けて、カーペットに倒れ込む。書類が舞い、それはまるで今の私の頭の中を表すかのように床を白く染めた。

 副社長、まだ一緒に働いてもいないですが、あなたを恨みます……。
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