副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「特にはありませんでした。ただ秘書のお仕事は初めてなので、副社長にもご迷惑をかけてしまうこともあるかもしれません。もちろんそうならないように早く仕事を覚えていくように――」

 必死で紡いでいた言葉を遮るように、彼はポン、と私の頭を撫でた。

 予想もしていなかった温かな重さに、私は思わず全身を硬直させられる。

 わっ! な、なに……!?

 動けないまま目を瞬かせていると、さらに彼はクスッと小さく笑みを降らせた。

「大丈夫、最初からなにもかも出来る人なんていない。ただ仕事が出来る人が欲しいなら、それこそ秘書室にいくらでもいる。俺は、君が必要だからここへ呼んだんだ」

 子供をあやすように優しく頭を撫でる手に、頬にはカッと熱が上った。

「それに、前にも言っただろ? 君には君の良さがあるって。だから焦る必要なんてない」

 きっと赤くなっている頬を見られたくなくて、両手で顔を覆う。

 出会ったあの夜のように〝君〟と呼ばれると、恥ずかしくていたたまれなくなった。

 そしてやはり、副社長があの彼だということをいちいち実感してしまう。
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