副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「あ、あの……!」

 絞り出した声は聞くに堪えないほど上ずっていて、口から出た途端に私を恥ずかしさで包んだ。

「んっ?」

 両方の口角を緩やかに上げて、私の言葉を待つ彼。

 その柔らかな表情に一瞬喉を詰まらせるけれど、意を決して口を開く。

「こ、こういうことは、やめてください。私は……あなたの秘書ですから」

 彼の手から逃れ、大きく一歩後ろへ下がった。言い終えると口をへの字に結んで、唇をグッと噛み締める。

 こういう距離感は、最初が肝心だ! これをなあなあにしてしまうと、今後困るのは私。ちゃんとハッキリ言わないと……!

 軽く臨戦態勢に入る私をきょとんとした表情で見つめた彼は、なにも言わず、すぐに噴き出すように笑みを零した。

 どうしてそこで笑うのよ……。

 不満気に眉を下げると、彼はそれに気付いたようでわざとらしくゴホン、と咳払いをした。

「ごめん、そうだなって思って。あと、自己紹介がまだだった。俺は、織田 千秋(ちあき)。よろしく、望月さん」

 彼は薄笑みを浮かべると、握手を求める。
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