副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
 本当にわかっているのだろうか?

 そう思ったけれど、今の彼の顔には先ほどまでの甘さはなくて、私は恐る恐るその手を取った。

「よろしく……お願い致します」

 握る手のひらに軽く力を込めた彼は、満足気に目尻を垂らして微笑む。

 思っていたよりも、話が通じない人ではないみたいで良かった……。

 それから彼に淡々と説明された一日の仕事の流れをメモして、奥の秘書室にこもっていた私。

「今日はとりあえず、これで終わりにしようか」と彼に声を掛けられて時計を見たときは、心底驚いた。

 やっと一日の業務内容を軽くおさらいして、ファイルにまとめられた取引先の人の名刺に目を通しただけなのに……。

 半休扱いだったとはいえ、ここまで時間が流れるのを早いと感じたのは久しぶりだ。

「す、すみません! 夢中になっていました」

 頭を下げると、彼は小さく笑みを零す。

 初日から副社長に時間を指摘されているようじゃ、全然ダメだ。

 彼に気付かれないようにそっと鼻で息をつく。
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