副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「お疲れ様、帰ろうか」

 よく見ると、彼の手にはすでにカバンがあった。

 もしかして、声を掛けるのを待っててくれたのかな……?

 答えの出ない疑問が頭を駆け巡り、それを振り払うように左右に首を大きく振った。

「お疲れ様です。すぐに準備します」

 慌てて自分のバッグを持つと、徐に歩き出した彼の後を追う。

 二十四階から二人だけだったエレベーターは止まるごとに人を乗せ、退社ラッシュの箱の中はすぐにいっぱいになっていった。

 目の前にいる彼との距離がグッと近くなり、このままでは鼻先が彼の背中に触れてしまいそう。

 すると背後から、女性の嬉々とした小さな声が聞こえてきた。ふと辺りに視線を流すと、箱の中のほとんどの人が副社長に視線を向けている。

 恐らく先ほどの声の主の女性社員だろうか、口元に手を当てて一際熱い視線を送っている彼女は、まるでアイドルでも見ているようだ。

 彼が人気だという噂は、本当だったんだな……。

 確かに顔も整っていて、身長だってきっと一八〇センチは超えている。歳は……三十五歳ぐらいかな? この若さでこんな大企業の副社長となれば、人気がない方がおかしいのかもしれない。
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