副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「な、なんですか……ここ」

 建物の入口で見た景色に、私は言葉を失う。

 目の前にあるのは、まるで高級ホテルのような建物。一体何階建てなのか、その空にまで続いているような高さは、下から見ているだけではわからなかった。

「おい、千秋!」

 建物を見つめたままマヌケに立ち尽くしていると、男性が一人こちらに駆け寄ってくる。

「おぉ。どうだ、手配は済んだか?」

 男性は副社長の知り合いのようだ。副社長が無表情で尋ねると、スーツ姿の男性は手に持っていた書類を「はい」と副社長に差し出す。

「まだ作業中だ。あと二十分もあれば終わるだろうけどな」

「そうか」

 受け取った書類に目を通しながら、ぶっきらぼうに返事をする副社長。

 仕事の話かな……? 仕事を思い出して、ここに寄ったとか? だってここはどう見ても、私の寮になるような部屋じゃない。

 仕事なら邪魔をしてはいけないと大人しく少し離れた場所で待っていると、副社長はすぐに私を見つけて手招きをした。

「どうした? 行くぞ」

 小首を傾げるけれど、やはり私を待っている様子の彼を見て、恐る恐る駆け寄る。

 ……私も行っていいような場所なの?
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