副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
 昨日彼からすでにまとめられた当面のスケジュールを渡されたけれど、今後はこれも私がやっていかないといけない。

 仕事だけでも大変なときなのに、家のことまで……。頭がパンクしてしまいそうだ。

「オールド食品の田代社長は先代の代からうちとご縁がありとても長い付き合いがある人なんだけど、少しだけ気難しい人なんだ。でもいい人だから、よろしく頼むよ」

 パソコンのディスプレイから顔を上げた彼は、ふっと優し気な瞳をこちらに向ける。

 それを聞いて、途端に全身に緊張が駆け巡った。

 副社長にとっても、そしてこの会社にとっても、とても大切なお客様ということだよね……。オールド食品の名前は、マーケティング部にいたときにもよく耳にした。もし私が田代社長に粗相をすれば、長きに続いた交友関係にヒビが入ってしまうかもしれない。

 想像しただけで、身体中の血が凍るような悪寒が襲った。

 ……これは、秘書になって二日目の私にとって大試練だ。

 萎縮してしまいそうになる心をなんとか奮い立たせていると、彼は眼鏡の奥にある目をキュッと細める。
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