副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「秘書として、秘書らしくないのがとても大切だ。〝バリバリ秘書〟というのは、実は秘書失格なんだよ。本当に仕事が出来る秘書は、周りを読み、壁の花になり、ほどを知っている人だ」

 湯呑みを手に取りそっとお茶の香りを嗅ぐ彼は、安堵したようにその表情を緩める。

 そして湯呑みから上げられた視線は、真っ直ぐに私に向けられた。

「要するに、とっさの判断が優れていて、あくまで自分は秘書という主役ではなく、支える役に徹底出来る人間。私はそういう人間が一番秘書に向いていると思ってるんだよ」

 私に向けられたであろう言葉に、胸が熱くなる。

 言い終えた彼は静かにお茶を啜り、あちっ、と顔を歪めるけれど、すぐにもう一度湯呑みに口をつけた。

「お茶も美味しい」

 柔らかな笑みを浮かべる彼は、なにごともなかったかのようにそのまま和菓子へと手を伸ばす。

 さくら堂の和菓子の素晴らしさを語り始めていた彼を見て、ほっと胸を撫で下ろした。

 ふと副社長と視線がぶつかり、思わずドキリと胸が高鳴る。

 それを知ってか、一瞬ふっと薄笑みを浮かべた彼はすぐに田代社長へと視線を戻した。

 初試練は、なんとかクリア出来たということでいいのかな?

 襲い来る安堵から今にも脱力しそうなる足を踏ん張って、私は二人を見つめていた。
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