天使と悪魔の子
彼女達の家は二階とかはなくて、草原にぽつんと佇んでいた。
窓から気持ちいい風が吹き抜ける。
ふたりはこんな何もない場所で、どうやって暮らしているんだろう?
「アリシア、ちょっとソラリウスベリザベート(※飼っている犬の名前)の様子を見てきてくれないかい?」
なんだその長い名前……
『わかった!』
水を飲み干した後走っていく彼女を見送るとお祖母様はこちらを見て微笑んだ。
「あなた、魔王の息子でしょ。」
「!」
一瞬動きが止まるかと思ったけど、なんとか自然に微笑み返す。
「いえ、俺はここから少し離れたところに住んでる子供ですよ。魔王って、なにかのおとぎ話ですか?」
「ふふっ、まぁいいわ。ヴァレールがいつか綺麗な男の子が尋ねてくるからよろしくっとかいって、またふらふらどっかに消えちゃったのよ…貴方がその男の子なのかと思っちゃったわ。」
不思議だった。
彼女は俺の正体に気付いているのに、その視線は嫌な感じがしない。対等な目線で話しかけてくれる。
それにヴァレールは…この世界で唯一絶対の神の名だ。なんでそんなに魔王の息子に警戒心なくいられるんだろう。
「ごめんね」
また唐突に謝る彼女に目を丸くする。本当に不思議な人だ。
「アリシアは…もうこの夏いっぱいで、ここを去るの。」
「そう、ですか…」
別に問題は無い…魔王の命令的には彼女の記憶に明確に俺という存在を刻み、将来彼女と婚約さえ結べればいい。
それが無理だったとしても姿を変えて、また彼女に近づいて彼女の心を射とめればいいんだ。
でも、今までの本当のことを忘れられるのは嫌だな……。
せっかく、仲良くなれたのに…。
「ごめんね…酷いことを頼むことになるわ。」
「…え?」
「いいえ、じゃあよろしくね。」
お祖母様はそういうと、目を閉じる。
寝てしまったのだろうか?
そっと席を立って離れる。
その時、彼女は泣いていたのかもしれない。