ずるい男 〜駆け引きは甘い罠〜
そして…
好きだと言ってもらえたら、どんなに嬉しいだろう。
叶わない夢に、こぼれ落ちる涙が頬を濡らした。
峯岸の本心を知るのが怖くて、連絡しないと決めたじゃないの…
それなのに、会いたいだなんて…
浜田と早希の幸せそうな姿が羨ましかった…
きっと、そう…
そうじゃなきゃ、心がこんなに乱れるはずがない。
峯岸にとって美姫は大勢の女の1人でしかなく、興味がなくなれば後を追うほどの女じゃなかった。
会社にとって美姫は大勢の社員の中の1人で、いつでも代替えがきき必要とされなかった。
峯岸にも
会社にも
必要とされなかった事が悲しくて泣いている自分が、とても惨めに感じたのだ。
でも、私を必要としてくれる存在がここにいる。
この子の為にも、強くならなければいけない。
お腹を撫で
強くなるからね…
と呟いた時、玄関の呼び鈴の音が聞こえた。
時計を見たら夜の8時前で、こんな時間に誰だろうと
頬を濡らす涙を指先で拭いながら、玄関の向こうにいる人物に尋ねた。
「はい、どなたです?」
「……おれ」
それだけで決意も忘れ、嬉しくてドアを開けてしまう愚かな無意識の行動は、峯岸を忘れられないからだった。