神木部長、婚姻届を受理してください!
「失礼します」
開いたままになっていた扉を二度ノックし、部長室に足を踏み入れる。すると、椅子に腰をかけていた聡介さんが顔を上げて私を見た。
「ああ、立川か。待ってたよ」
資料束をデスクの上でバウンドさせ、クリップでまとめる。そして、その資料束を隅に寄せて置くと聡介さんは私の背後を見ながら口を開く。
「ごめん。悪いけど、大事な話をしたいから扉閉めてもらってもいい?」
「あ、はい」
体を180度回転させて後ろを向くと、手を伸ばし、開いたままにしていた扉をゆっくりと閉めた。
特に重たい雰囲気が流れているわけでも何でもない。いつもと変わらない彼の口から発せられる〝大事な話〟。
一体何の話をするのだろう、と胸をドキドキさせながら、私はただ次の言葉を待っていた。すると。
「これ、受理しようと思う」
そう言って、デスクの引き出しから一枚の白い封筒を取り出す。
「え?」
「まさか忘れた? 沙耶がここに持って来たっていうのに」
〝婚姻届〟と黒い筆ペンで書かれている白い封筒。確かに、その文字は間違いなく私が書いたものだし、私が渡したこともしっかりと覚えている。
だけど、まさかその封筒がまだ残っているとは思っておらず、私は目を丸くして驚いた。