神木部長、婚姻届を受理してください!
「覚えてます!だ、だけど、受理しようと思うって……聡介さん、それ婚姻届ですよ?」
「知ってる」
「え?」
「沙耶と、結婚したいと思ってる」
「えっ⁉︎」
あまりに突然すぎる展開に、ドッキリカメラでも仕掛けられているのではないかと思った。
ドッキリではありませんように、と願いながらゆっくり呼吸を整えると、いつの間にか椅子から立ち上がっていたらしい聡介さんが私の目の前に立っていた。
彼はゆっくり私の左手を取ると、ポケットから何かを取り出し私の薬指にそれを通す。
まさか、と思った瞬間視界に入ってきたのは、私の薬指にぴったり通されているピンクゴールドの指輪。メインのダイヤの脇にメレダイヤが敷き詰められた可愛らしいデザインが私好みだ。
「結婚しよう」
真っ直ぐ私を見ている聡介さん。私は、胸の奥から込み上げてくる熱いものを堪えきれず、涙をボロボロと流すと大きく頷いた。
「こらこら、そんなに泣かない」
「だって……」
「これ届けたら、会社のみんなにちゃんと公表しようか。夫婦になれば、言わない理由もないし、こっちとしても沙耶に変な虫がつかなくて好都合だから」
髪を撫でながら笑うと、彼は「ほら、早く泣き止みなさい」と言って私を大きな腕で包み込む。
「……好き」
つい、愛しさが溢れる。
「分かってる」
彼は、私がこぼした言葉に呆れながらも笑ってくれる。その優しさが嬉しくて、本当に大好きで、私は聡介さんの背中に腕を回すときつく握りしめた。
「泣き止んだら早く仕事に戻ること」
「えー」
「えー、じゃない」
また夜デートしたらいいだろ、と言って私を宥める彼はきっと私が単純な人間であることを知っている。
いつもの私なら、夜デートができるなら、って渋々頷いたかもしれない。だけど。