神木部長、婚姻届を受理してください!


「え? 部長が?」

 12時が過ぎ、香織さんと会社の向かいにあるカフェにやって来ると、昨日の出来事を全て説明した。すると、香織さんは唇に当てていたストローを一旦離し、大きく目を見開いた。

「はい。間違いなく部長の声でした」

「あら、そう……沙耶ちゃんの言動に〝困ってる〟ねえ」

 顎に手を当て、何か考え込んでいる様子の香織さん。彼女は、しばらくそうしていると、ゆっくり顎から手を離し、眉尻を八の字に下げた。

「まだ、部長の発したその言葉の真意は分からないけど……ごめんね。私、〝部長も満更でもないと思う〟なんて、無責任なこと言っちゃって」

「そんなそんな!香織さんは何も悪くないです。謝らないでください。悪いのは、全部私なんです。自分の気持ちばっかり押し付けて部長の気持ちを全然考えてなかったな、って今更反省してます」

 確かに、私は神木部長を好きなだけ。だけど、その気持ちを部長に押し付けすぎていた。部長の気持ちなんて微塵も考えていなかったし、私の好意を部長は嫌がってはいないだろう、なんて勝手な勘違いまでしていた。

 だけど、実際はそうじゃなかった。あの日、部長の本音を聞いたことで、部長が困っていることにやっと気がつけて良かったのかもしれない。

「沙耶ちゃん、今日は部長に朝の挨拶しに行ってなかったみたいだけど……どうするつもりなの? 部長のこと」

< 37 / 113 >

この作品をシェア

pagetop