ここにはいられない
暖かさと人の気配でホッとするとお腹がすいてきた。
時刻は夜7時を回っている。
「あの、みなさんご飯って食べました?」
見回すとみんな首を横に振る。
「ちょうどこれから何か考えようと思ってたところです。だけど家、何もなくて・・・」
南部さんが小さな冷蔵庫を開けたり、棚をのぞき込んだりしながら言う。
「うちに米だけはあるから取ってくるよ。電源落ちたから冷めてるとは思うけど」
長田さんが懐中電灯を片手にリビングを出ていった。
「あの、私でよかったら何か作りましょうか?ちょうどお買い物をした直後で食材余ってるんです。このままじゃダメになっちゃうし」
ビニール袋に突っ込んだお肉や野菜を出すと、南部さんと和泉さんが揃って歓声を上げた。
「いいんですか?すみません。お願いします」
「あ、私手伝います!何作ります?」
大きな懐中電灯を借りて和泉さんと二人でキッチンに立つ。
こんな時だから食べ合わせは考えず、作れるものをとにかく作ることにした。
「長田さんからご飯もらったけどやっぱり冷めてるからオムライスとかどうでしょう?卵も買ったばかりだし」
「いいですね!牛肉もいっぱいあるから牛丼にでもしちゃいましょうか。明日明るくなったら土鍋でご飯も炊けるでしょうし」
暗がりでの調理は思った以上に難しくて、和泉さんに懐中電灯で照らしてもらいながら私が炒めるような状態だった。
ケチャップを絞って、和泉さんが首を傾げる。
「懐中電灯って色味が全然わからないんですね。今ケチャップ入りましたよね?」
「入りました。量は・・・よくわからないけど」
「こうしてみるとチキンライスって目で見た色合いで味の濃さを判断してたんですねー。今は赤いのか白いのか、どっちかな?」
「味見しますね。・・・多分、大丈夫だと思いますけど。視覚が使えないと味もいまいちわからないな」
和泉さんも一口味見して「本当だ」と口元のケチャップを拭いながらニコニコと笑う。