ここにはいられない
「志水さんの彼氏さん、頼り甲斐ありそうで素敵でしたねー」
和泉さんは重い懐中電灯を持つのが疲れたようで、反対の手に持ち替えた。
「彼氏じゃないです。ただの・・・友達です」
「えー?あんなに親しそうだったのに?もったいなーい!もう付き合っちゃえばいいのにー!」
和泉さんの叫びで照らす灯りが揺れる。
それは、まあ、一緒に住んでたくらいだから、ただの他人よりはずっと親しいだろうけど。
私と千隼の関係は何がなんだか自分でもわからないのだ。
うずまく感情を言葉には表せず曖昧に笑って、チキンライスを包む作業に集中するフリをした。
「和泉さんはお付き合いしてる方はいないんですか?」
自分は聞かれて困ることばかりなので、話をそっちに向けた。
「店長が好きなんですけどねー。なんだか難しいです」
「え?」
振り返って南部さんを見ると、長田さんと本を広げて楽しげに話している。
「『反射式ストーブなんてない!寒くて死ぬ!』ってどさくさに紛れて家に押し掛けたんですけど、こんな風に誤魔化されちゃいました。まあ、これはこれで楽しいですけど!」
『俺としては願ったり叶ったりなんですけど、こんな状況の時に手を出したらマズいでしょう?』
私の見立てでは多分・・・。
いや、でも私と千隼のことを考えると、人の見立てなんて当てにならないし。
恋愛はどこでも複雑なようだ。
「私、邪魔しちゃったかな?」
和泉さんは笑顔で首を横に振る。
「これでよかったんです。でも、こんな夜は好きな人の側にいたいじゃないですか」