ここにはいられない


なんとか作った4人分のオムライスと予備の牛丼、しじみのお味噌汁。
この状況で魚を捌くのは無理だから、サンマはもう諦めた。

キャンプ用だというスタンドライトは乾電池以外にも太陽光でも蓄電できるらしい。
キャンドルとは比べものにならない明るさの中に、不格好なオムライスを並べる。

「味に自信なくて、変だったらすみません」

「いやいや!こんな時にちゃんとした物食べられるとは思いませんでした。いただきまーす!」

「オムライスなんて久しぶりです。いただきます」

南部さんと長田さんが「おいしいですよ」と言って食べてくれるので、私と和泉さんも安心してスプーンを差し込んだ。

「せっかくだからビール飲みます?ぬるいけど」

と南部さんが全員に缶を配る。
本当にキャンプのような楽しげな雰囲気に遠慮なくプルタブを開ける。


「志水さんは市役所職員ですよね?こういう災害時って出勤したりするんですか?」

長田さんに指摘されて初めてそのことに思い至った。

「あ、えーっと私は保健部なので当番ではないです。防災課とか担当課は出勤していると思いますよ。もっと被害が大きい時は、私も救命活動とか保健活動に駆り出されるみたいですけど」

大雨や土砂崩れなどの警報が出て災害が見込まれる時にも、防災課を始めとしていくつかの課は当番制で待機することになっていたはずだ。

地震でできた道路の亀裂が市内であり、またその道路が市道であれば道路課も出ているだろう。
断水があれば水道課も出ると思う。
だから建設部は全課が緊急時当番のローテーションに組み込まれていたはずだ。

・・・ということは、都市計画課である千隼もそのローテーションに含まれているはず。
今夜ここに来たということは当番ではなかったのだろうけど。

「消防や自衛隊、警察は自分の家や家族を後回しにすることも多いでしょうから大変ですよね。だけど市役所職員もそうしていることは、あまり知られていないんじゃないですか?」

「そうですね。特に私みたいに関わっていない職員もいるから、余計に認知されていないと思います」

私自身ローテーションに含まれていないからって自覚がなかった。
私が「暗い」「怖い」って泣いている時に出勤して対応している職員もいるのだと思うと、本当に情けない。
怖いのはどうしようもなくても、それを押し殺せるくらいには強くならないと。



< 108 / 147 >

この作品をシェア

pagetop