ここにはいられない
タクシーの中で千隼に千円札を押しつけ、会計は任せて一人千隼の部屋である2号室へ走る。
すでに取り出していた鍵でドアを開けると、靴を脱ぐのももどかしくトイレへと走った。
千隼の言った通り、アルコールはよくなかったみたいだ。
最近ずっと調子がよかったから油断していたけど、すっかりぶり返している。
痛みでこぼれた涙をトイレットペーパーで拭き、赤い目をしながらトイレの引き戸を開けたら、キッチンで千隼があったかいほうじ茶を淹れていた。
二つ淹れたマグカップの片方を黒いローテーブルにゴトリと置いて、自分はソファーに座って飲みながらテレビをつけた。
「ありがとう。いただきます」
何も言わずまばたきだけして、千隼は夜のニュース番組を見ている。
だけどちゃんと聞いているんだってことはなぜかわかるのだ。
最初からずっと。
私がここにこうしているのも、千隼がそういう人だから。