俺様ドクターに捕獲されました
「りい!」
その声に、ビクリと身体が跳ねる。私をそう呼ぶのは、この世にたったひとりだけ。振り返らなくても、誰かなんてわかりきっている。
それでもたしかめずにはいられなくて、私は恐る恐る後ろを振り返った。
そして、その恐ろしい形相にヒッと息を飲む。思わず菅谷先生にすがりつくと、彼の顔はさらに険しくなった。
「亮太、お前……俺のものに手を出すとは、いい度胸だな」
「えー。お礼を言われても、文句を言われる筋合いはないな」
地を這うような低い声で凄まれて、怯える私とは逆に、菅谷先生は飄々としている。一度離した手を再び私の腰に回した。
「てめ、りいに触るな。早くその手を離せ」
「優にそんなこと言う権利あるのかな? 付き合ってるわけじゃないんでしょ。それに里衣子ちゃん、めっちゃ怯えてるじゃん」
スリッと私の頭に頬ずりをしながら、菅谷先生は優ちゃんのことを挑発する。あれ、さっき良好な関係でいたいとか言ってなかった?
なんで、そんな火に油を注ぐような真似をするの?
「この機会に、言いたいこと全部言ったほうがいいよ。優に伝えたいこと、たくさんあるんじゃない?」
混乱している私の耳元で、菅谷先生がささやいた。その顔をを見上げると、パチンとウィンクをされる。
そうだ、このままじゃダメだ。もう彼に、“もの”扱いされるのは嫌だ。だって、あの人は私のものにはなってくれないのに。