俺様ドクターに捕獲されました
私は、変わったはず。弱虫な自分とは、サヨナラしたんだ。
だから、今度は黙って逃げるんじゃなくて、言いたいことを全部言ってから逃げよう。
「りい、こっちに来い。今日、教えたのにもう忘れたのか? お前は……」
「私、ものじゃないもん。優ちゃんのものなんかじゃない! 私のことなんか好きじゃないくせに。振り回されるのは、もうごめんなの」
菅谷先生から離れて、真っ直ぐに彼のことを睨みつける。驚いたように目を見開く彼を見つめながら、自分が“特別”ではないと知った瞬間の記憶を思い出す。
あれは、私が小学六年生の頃。ずっと私のことを所有物扱いしていた彼が、かわいらしい女の人と並んで歩く姿を見て強いショックを受けた。
あの人の隣は私の特等席だと思っていた私は、それがとんだ思い上がりだったことを知ったのだ。
あの頃の三歳の年の差は大きく、ランドセルを背負った私にはセーラー服を着たその人たちがとても大人に見えた。
私が彼のお気に入りだと知っている人もいて、露骨にバカにした視線を向けてくる人もいた。
そのたびにみじめな気持ちになり、私がそんな思いを抱いているとは露とも知らず、変わらず私を自分のもの扱いをする彼の態度に苦しくなった。
その気持ちは成長するごとに強くなり、私は彼から逃げることを決めたのだ。