俺様ドクターに捕獲されました
最初からこうなると予想していたのか、菅谷先生は私の鞄を持ってきていたらしい。それを彼が受け取ると、笑顔で手を振る菅谷先生がドンドン遠ざかっていく。
「や、やだやだ! 下ろして!」
「暴れんな、通報される。お前、俺を犯罪者にする気か?」
そう言われて、かなり注目を浴びていることに気がつく。ちょっとこれ、かなり恥ずかしいんですけど。
「だ、だったら下ろしてよ……」
「お前が逃げるからダメ。そう何回も逃げられてたまるか。俺だって、もうあんな思いするのはごめんなんだ。お前の話、全部聞いてやるから。俺の話も聞いてくれ」
苦しそうな声に、身動きがとれなくなる。そのまま少し進むと、近くに停めてあった彼の車の後部座席に身体を押し込まれた。
「頼むから、もう逃げるな」
懇願するような声。車のドアが閉まる寸前に見た彼の顔は、切なげに歪んでいた。
初めて見るその表情に、心が騒ぐ。
私がいなくなったあとの彼のことなんて、考えてみたこともなかった。彼のなかでの私の存在なんて、取るに足らないちっぽけなものだと思っていたから。
だけど、そうじゃなかったの?
今の私の気持ちを、伝えてもいいのだろうか。伝えちゃいけないと、ずっと心の奥に秘めていた思い。
でも彼は、全部聞いてくれると言ったから、もう隠さずにすべて伝えよう。それでどんな結末になろうとも……後悔はしない。
無言で車を運転する、彼の整った横顔を眺めながら、期待と不安が入り交じり、ドキドキとうるさく音をたてる胸を押さえた。