俺様ドクターに捕獲されました


「お前、その他人行儀な呼び方やめろよ」

「癒しモードのときは、セラピストとお客様なんで。本気で対応させていただきます」

「……わかったよ。マッサージしてもらってるあいだは大人しくしとく。だから、いつもみたいに優ちゃんて呼べ」


不服そうに唇を尖らせる彼に、ぷっと吹き出す。なんだか子供っぽくて、ちょっとかわいい。


「そんなに嫌なの?」

「ああ、お前には名前で呼ばれたい。俺を優ちゃんて呼ぶのを許してるのは、りいだけだ」


ぎゅっと私を抱きしめる腕に、力が込もる。かすかな煙草の香りに包まれて、簡単に胸がドキドキとしてしまう。


だけど、勘違いしてはいけない。別に私は、彼の“特別”ではない。


この胸の高鳴りは、私が異性に慣れていないせいだ。別に彼だから、ドキドキしているわけではない。


そう自分に言い聞かせて、背中にまとわりつく彼の妨害を受けながら、夕飯作りを再開した。



* * *




「あー、なにこれ。すげぇ、極楽」


グリーンクレイをいれたバスタブに浸かった彼が、はあっと満足げに息を吐きながら呟いた。


目と肩には、クレイをガーゼに塗ったものを乗せ、頭にもクレイを塗っている。


クレイはいわゆる粘土だ。だけど、これがバカにできない。


強力なデトックス効果を持ち、豊富なミネラル成分が栄養を与えてくれる。さらに、ガーゼにクレイを塗った『クレイ湿布』は余分な水分を除去し、炎症や痛みも和らげてくれる優れものだ。

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