俺様ドクターに捕獲されました
「な、なにするの」
「んー、りいはやっぱり優しいな、と思って。それより、今さら、手にキスくらいで照れるなよ。もっと濃厚なキスしてんだから」
頭をバスタブの縁に乗せて、ニヤニヤ笑って私を見上げてくる彼が、ちょっぴり憎たらしい。
絶対怒られるから口にはしないけど、なんかちょっと親父くさくなったな。まあ、彼も三十二歳。
さすがに最後に会った二十代の頃とは違うのだろう。不健康代表みたいな身体だしね。
「おい、りい。びっくりするくらい目が軽くなった。視界がクリアだ。俺、目がでかくない?」
キラキラした目を向けてくる彼に、クスッと笑ってしまう。クレイが余分な水分を吸着してくれたからそう感じるんだろう。
「本当だ。いつもにまして目力がすごいね。優ちゃん、頭流すから上向いて。はい、蒸しタオル乗せます」
肩のクレイ湿布を外して、シャワーで髪を流しながら頭皮のマッサージをする。頭皮も凝ってるし……。
本当に、健康な場所がないんじゃないかな、この人。
「あー、気持ちいい。料理もうまいし、りいは、いい奥さんになるな」
「そう? 残念ながら、なる予定もありませんけどね」
「なら、俺が今すぐもらってやるよ」
「結構です」
「つれないなぁ。俺みたいないい男に迫られて断るなんて、りいくらいだぞ。高身長、高学歴、高収入。またとない優良物件だろ」
そんなこと自分で言うか、普通。相変わらず、すごい自信家だ。