俺様ドクターに捕獲されました


そう、それだけだ。私はもう、勘違いしない。彼の言葉を真に受けちゃダメだ。


もう忘れかけていたのに、どうして再会してしまったんだろう。


閉じかけていた傷口が、ズキズキと痛む。幼い頃の恥ずかしくて苦い記憶が甦って、目に涙が滲んだ。


私は、弱い。どうしようもなく、弱い。だから彼から逃げたのに、神様って本当に残酷だ。


目尻に浮かんだ涙をタオルで拭って、深呼吸を繰り返す。


落ち着こう。彼はお客様で、私はプロのセラピストだ。これは仕事なんだから、しっかりしなきゃ。


気持ちを落ち着けてから、慎重に精油をブレンドしていると、バスローブ姿の彼がリビングに入ってきた。無駄な色気を放つその姿に、慌てて目を逸らす。


なんでこの人は、こんなに無駄に色っぽいんだろう。


濡れた髪が片目を隠し、バスローブから覗く身体は綺麗に筋肉がついている。細マッチョ好きな私に、その姿は目に毒だ。


いつも彼は半裸で寝ているから、見慣れているはずなのに、チラリズムってこんなに威力があるんだ。


赤くなった顔を隠そうと、精油を垂らしたオイルをかき混ぜる。ふわりと森を思わせるグリーン調の香りがして、少し心が落ち着いてきた。


今日は、身体のバリア機能を高めてくれるサイプラスに、デトックス効果の強いジュニパー、そこにリラックス効果のあるラベンダーとスウィートオレンジをブレンドしている。


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