空高く、舞い上がれっ。
あの後、寧音が繋いでくれた手と、背を押してくれる尊に支えられ体育館に戻ろうとしたら、違うクラスの教室に輝空がいるのが見えた。

姿を見たら苦しくなるとわかっているくせに、輝空を追ってしまう。

「ちょっと先に行ってて」

そんなわたしを見て、寧音は手を離した。
イカナイデ……寧音を追った手は行き場を無くす。

「……行こう。先……」

尊は悲しそうな目をして、何もしてやれなくてごめん。と、ただそれだけを言って再びわたしの背を押して歩き出した。


“──……今そんなこと言って歩舞がどうなるか考えたの!?”

背中の方から寧音の声が聞こえた気がした。



こんな学園祭になるとは思わなかった。楽しく輝空と笑い合いたかったのに……
話したいことはいっぱいあったけど、本人を前にすると──

≪距離を置きたい≫

フラッシュバックで何も言えなくなる。

だからその日、初めてサヨナラを言わずに帰った。

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