彼は高嶺のヤンキー様4(元ヤン)
女将さんは親切だった。
「まぁまぁ、凛道様は、獅子島様の教え子でございましたか?」
「そうなんです。」
優しいし、話し上手というか、話術がすごいというか、たわいない話でも盛り上がれた。
だから、言われるまで気づかなかった。
「凛道様、こちらになります。」
「あ、もう着きましたか?」
藍色ののれんの前で女将さんが言う。
「どうぞ。」
そう言って、のれんを手で上げ、引き戸をカラカラと開けてくれた。
「す、すみません!なにからなにまで・・・・」
「よろしいんですよ。わたくし共の仕事ですから。」
「あの・・・・本当にこの時間は、誰もいないですよね?」
「そのことですが・・・・よろしければ、凛道様以外、ご入浴できないようにいたしましょうか?」
「え!?出来るんですか!?」
「はい。札をかけるだけでいいですので。」
そう言って見せてくれたのは、『貸し切り中』と書かれた木の札。
(ここまでしてくれるなんて・・!!)
「これがありましたら、どなたも入れませんわ。」
「あ、ありがとうございます!ここまでして頂いて・・・」
完全なる貸し切りにお礼を言えば、ニコニコしながら女将さんは言った。
「いいんですよ。『海でおぼれた女の子を助けた少年が泊まっている宿』ということで、良い宣伝になっておりますので。」
「へ?そういうものなんですか??」
「そういうことにして下さい。」
笑顔で言うと、貸し切り中の札を戸口にかける女将さん。
「お飲み物は、後ほどお持ちいたします。」
「の、後ほどですか!?」
「ほほほ!ご心配なさらずとも、お持ちの際はこちらのブザーでお知らせします。」
そう言って渡されたのは小型の無線機。