【完】『藤の日の記憶』

一年ほど過ぎた頃、父親の法事で大阪に一誠は戻ったが、カナに連絡は取らなかった。

その後、カナには会っていない。

泉に至っては、噂話で市議会に立候補して落ちたり、事業に失敗してサラ金から金を借りて利子がかさみ、夜逃げをした話までは聞いたが、そのあとはどうなったか分からなかった。

一誠もバイク便の会社を独立して立ち上げ、苦労しながらも何とか軌道に乗せて、その間に一度紹介された女性と結婚はしたが、うまく行かずに半年で離婚してしまい、それからは結婚は懲りたらしい。

休みの日、一誠はバイクを駆って鎌倉まで出掛けた。

海を見たり、売店でソフトクリームを食べたりしていたが、ふと立ち寄った小さな神社に、小さな藤棚を一誠は見つけた。

棚の下にはベンチがある。

腰かけてみた。

あの日と同じように満開で、同じように蜂が羽音を立てて、蜜を吸っている。

しばらくブンブンと賑やかであったが、満腹になったのか、やがて蜂は刷毛で掃いたような薄曇りの空へ、羽音を立てて飛び去って行った。





【完】





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