契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
 忍の部屋に入るのは、引っ越してすぐの、あの日以来。
 もちろん、緊張はしていたが、今日はそんなことを言っていられない。鈴音は、家政婦のように、忍の身の回りの世話をし、ベッドに入るのを見届けた。

「じゃあ、電気消しますね」
「きみは、部屋に戻らないのか?」
「はい。今夜は同じ部屋で寝ることを許してください。なにかあったら、遠慮なく起こしてくださいね」
「どこで寝ようと?」

 忍の質問に、気まずそうに言葉を詰まらせる。

「あ、すみません。よければ、このソファを借りても……」

 鈴音は、部屋の隅にある、ひとりがけのソファを目で指した。
 すると、忍は鋭い瞳を鈴音に向ける。

「そんな扱いを女に平気でさせられる男だと思っているのか? オレだって、慈悲の心くらいある。ベッドを使え」
「でも」
「初めて寝るわけではないし、いまさらだろ。逆に落ち着かない」

 そう言われてしまうと、反論できない。忍の身体を心配して、そばにいようとしているのに、忍が落ち着かず休めないのなら意味がなくなる。

 だけど……と、鈴音が躊躇していると、忍がベッドから足をおろし、鈴音の前にやってくる。そして、鈴音の手首を取った。

「オレは鈴音なら構わない」
「……え?」

 鈴音は忍の言葉に耳を疑った。

(いや、今のは、特別だと認めてるっていう意味合いじゃなくて、許容範囲ではあるってレベルのニュアンスよ)

 危うく、特別扱いかと勘違いするところだ。鈴音は最近、忍の一挙一動に翻弄されている気がして、自分を戒める。

「……落ち着かないっていうことでしたら」

 念を押すように確認し、鈴音はそっと忍の手から逃れる。電気を消し、ベッドの隅に横たわると、忍に背を向け身体を丸めた。
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