契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
 鈴音は、きつく瞼を閉じ、心を落ち着けてから顔を上げる。

(急がなきゃ)

 冷静になり、すぐに出社の支度を始めた。着替えを済ませ、キッチンに立つ。
 この数日間で、冷蔵庫を開けることや、キッチンの使い勝手には慣れていた。

 同居してすぐに、忍と決めたことがあった。家賃や食費などをどうしたらいいか、というものだ。

 鈴音は、さすがに折半は無理だけれど、払える分だけは出すと意見したのだが、忍はそれを受け入れなかった。
 明らかに収入に差があり、鈴音ひとり一緒に住むようになって、そこまで支出が増えるとは思えない。そういう理由で、これまで通り、自分が負担すると忍に押し切られた。

 そこでも、鈴音が不満そうな態度をしていたせいか、忍はひとつだけ条件をつけた。

 鈴音が自分の食事を用意する際、忍が『不要』と言う日を除いて、朝食と夕食は彼の分を一緒に用意すること――。

 鈴音は手を止めて、そのときの話し合いを思い出していた。ハッと我に返り、冷蔵庫にあるものを手際よく調理しはじめる。
 目の前にあるのは、自分の簡単な朝食とひとつのお弁当。

 鈴音はお弁当箱のフタを手にし、なにやら迷ったようにお弁当を見つめている。そして、決心してフタを閉め、ランチマットで包んだ。

 朝食用のプレートをダイニングテーブルまで運ぼうとしたときに、テーブルの隅の白い紙袋が目に入る。
 それは、忍が処方された薬。その袋は昨夜からまったく変わっていないように見える。

「え……。もしかして、今日のぶんの薬を忘れてる? それに痛み止めも」

 プレートをやや乱暴にテーブルに置き、薬の袋をガサガサと開ける。薬のシートを出して、穴を数えると、やはり今朝から飲んでいないのがわかった。

(私が神経質すぎる? でも、昨日の今日だし……)

 鈴音はしばらく薬を見つめて考える。
 それから、一度部屋へ戻り、手帳を持って戻ってきた。
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