契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
 鈴音が考え込んでいるうちに、エレベーターは止まり扉が開いた。
 ハッとして見上げると、最上階に到着している。鈴音は慌ててエレベーターを降りた。

 ふかふかな絨毯の上を戸惑いながら歩いていく。

 角を曲がるとすぐにデスクがあり、秘書らしき女性がいた。
 彼女が立ち上がって頭を下げるのを見て、鈴音は迷う心配など無用だったと拍子抜けした。

「おはようございます。受付から連絡を頂いております。ただいま副社長室へご案内を……」
「鈴音様」

 それでもまだ緊張が残ったまま、秘書と向き合っていると奥から柳多がやってきた。

「柳多さん……!」

 鈴音は知った顔が見えてほっとする。

「この方は私が案内するから。きみは座っていて」
「承知いたしました」

 柳多が秘書の女性を戻らせると、鈴音に笑顔を向ける。

「今朝、副社長から頼まれていました。鈴音様をすぐに通すようにしてくれと」
「そ、そうだったんですか。あの……その『様』っていうのは……」

 柳多が歩き進めるのを追いながらどぎまぎとして指摘する。
 T字路を曲がり、秘書のデスクが完全に見えなくなったところで柳多は振り返る。

「ふふ。本当に慣れない人だ。わかったよ。ふたりのときは、対等に話をすることにしよう」

 柳多は鈴音への態度を崩し、眉を上げて笑った。

「それにしても、昨日は驚いたよ。副社長から電話をとれば病院だというのだから」

 秘書の姿は見えないとはいえ、同じフロアにいることもあり、声を落としてそう言った。

 柳多が対等な立場で話をし始めたせいかもしれないが、鈴音は彼の言葉が皮肉めいて聞こえ、立つ瀬がなく俯いた。

「す……すみません」
「本当に」

 さらに柳多が即答するものだから、鈴音はさらに頭を垂れた。

(私が傷つくなんて間違ってる。傷ついたのは忍さんで、それは私のせいなのは本当なんだから、こういう態度を向けられたって仕方がない)

 柳多の非難を受け入れなければと、心を決めてゆっくり顔を上げた。その瞬間だ。

「けれど、きみのせいではない。悪いのは犯人だ。それと、油断をしてしまった副社長も悪いかな?」
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