契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
 柳多が突然忍へ矛先を向けるものだから、鈴音は驚愕する。
 しかし、すぐに柳多に噛みついた。

「そんな! 彼が悪いだなんてありえません! なんでそんなことを!」
「いやいや、冗談。もう少し声を落としてね」

 柳多が失笑して窘めると、鈴音はばつが悪い顔で口を引き結んだ。

「だけど、彼は過去に柔術の黒帯締めていた人なんだよ。まあ、十年近く前なら勘も鈍るのかな」

 柳多は微苦笑を浮かべる。

(そうなんだ。言われば、確かに忍さんの姿勢や身体つきはいい。昔の名残なのかな)

 鈴音が心の中で納得すると、柳多は目を吊り上げて食い掛かかってきた鈴音を思い出し、笑いを零す。

「ずいぶんと怖い顔をして副社長を庇ったね」

 にやにやとした顔つきで言うものだから、鈴音は冷やかされていると捉え、平静を装って睫毛を伏せた。

「……当然です。私を守ってくれたんですから」

 柳多に指摘されて、思わずドキリとした。

 忍に責任があるような言い方をされて、咄嗟に頭に血が上った。
 それは、単純に恩人を悪く言われたからという感情ではなかった。

 しかし、鈴音はそれ以上自分の心を深く追求しないように、あえて思考を遮断した。
 そんな鈴音の葛藤をも見透かすように、柳多は涼しい顔をし、薄っすら笑みを浮かべる。

「守ってくれた……ね。さあ、ここがきみの旦那様がいる部屋だ。鈴音様、どうぞ中へ」

 柳多によって話は終わり、目の前の重厚そうなドアが開かれる。

 鈴音は心の準備もないまま、慌てて姿勢を正した。
 まるで面接者のように「失礼します」と堅苦しく挨拶をし、部屋の外から正面に見える忍を窺う。

「そこまで他人行儀にしなくてもいいけどな」

 忍は手にしていた液晶タブレットをデスクにポンと置き、小さく笑った。
 鈴音は部屋に入るなり、心配そうに眉を寄せる。
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