契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
昨夜の帰り道、コンビニに立ち寄った際に防犯ブザーが目に入り、思わず購入した。

念のため、とそれをカバンにぶら提げ、出勤する。しかし、鈴音が心配していたようなことはなにもなく、すでに閉店まで一時間を切っていた。

(今日は梨々花もいた。夜は一緒にご飯を食べに行く約束しているし、大丈夫)

レザーベルトの腕時計を見て、心を落ち着ける。
そこに、スーツの男性がやってきて、慌てて顔を上げた。

「いらっしゃいま……あぁ!」

目の前に立っていたのは、昨日の客であり、恩人でもある彼だ。
つい声を大きくしてしまい、口を手で覆う。後ろをそっと見ると、佐々原が目を丸くしてこっちを気にしている。

鈴音は気を取り直し、今度は声を落としてお辞儀をした。

「昨日はありがとうございました。本日は……?」
「今日は特に買う予定はない。悪いな」
「いえ。では、もしかして、お礼の件でしょうか?」
「……いや。それは、まだもう少し保留で。今日は、たまたま用事があってきたから、ついでに渡しておこうかと」

てっきり、礼のことで来店したのだと思った。

鈴音は、買い物もなく礼でもなければ、ほかに思い当たることもない、と首を傾げる。
彼は慣れた様子でポケットから名刺入れを出した。
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